株式会社あさくまサクセッション顧問 中川徹也氏に聞く

市場淘汰の激しい飲食業界で、M&Aにより躍進を続ける企業がある。
M&Aを成功に導く秘訣は何か?
佐藤こうぞうフードスタジアム編集長とM&A専門家 照井久雄の2人が、今注目の飲食企業に乗り込み、M&A戦略の本質に迫る。

高収益店舗を売却!海外は続けながら、売却先で事業参画!

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もつ焼「エビス参」をチェーン展開するダイネットは2013年11月、国内直営全8店舗の経営権をFC加盟契約(当時3店舗)ともども、あさくまサクセッションへ売却した。「ステーキのあさくま」を経営するあさくまの100%子会社だ。

売却して約1年半。「エビス参」の生みの親である中川徹也氏は、どのような立場で、何を行っているのか?

そもそも高収益の「エビス参」をなぜ売却したのか?

そして、将来をにらんで何を?

ご本人に聞いた。

売却先で出店を担当

佐藤 「エビス参」を売ったあと売り先のあさくまサクセッションへは顧問で入られたとか。どんな仕事をしているのですか?
中川 あさくまサクセッションは飲食の6業態を手掛けています。
「エビス参」に農家直送ビュッフェ「ファーマーズ・ガーデン」、「オランダ坂珈琲邸」、イタリアンビュッフェ・レストラン「パルティーレ」、インドネシア料理「スラバヤ」、海鮮焼き「きよっぱち」です。私はこの中で「エビス参」と「スラバヤ」を主に担当しています。

照井 出店関係だけですか?
中川 出店の企画・検討・実施計画がメインですが、「エビス参」についてはマネジメント面にも割と深くタッチしています。

佐藤 売却したあとも深く関われるというのはいいですね。
中川  直営店はすべて私が出店させましたから、愛着があります。店長たちとも親しい関係。売却と同時にスパッと切れるものではなかった。その点はありがたかったですね。

照井 飲食業のM&Aがうまくいくケースでは、しばしば見られるパターンです。精神・感情面でのアフターがどうなるかは前もって考えておくべきポイントのひとつではないでしょうか。
佐藤 私もそう思います。ところで、「エビス参」の特徴を挙げるとしたら、どんな点になりますか?
中川 やはり営業利益率が高いことでしょうね。20〜25%あります。ただし、大きな店というわけにはいきません。もちろん立地条件にもよりますが。ちょうどいいのは15坪くらいです。
それと、もつ焼という性格上、職人が育つのに時間が必要です。みっちりやって1年。ほかの飲食業態に比べて出店速度が遅いという宿命は否めません。

佐藤 なるほど。職人の腕しだいで味が変わると?
中川 ある程度、それは仕方ない。逆にいえば、お客さまは店長の焼きの腕に付いているから安定的に売り上げが出るんです。

佐藤 現在の出店計画はどんな感じですか?
中川 7月、横浜に1店舗オープンします。それと、東京・蒲田駅近くで2店舗を検討中ですね。あさくまの森下篤史会長からは早く20店舗にせよと、檄を飛ばされています。できれば2016年の3月末までにと。

照井 それは景気がいいというか、大変なミッションというか(笑)。どこかを買収して業態チェンジをするとか、そんな方法でないと難しそうですね。

売却先の会長に敬服!

佐藤 素朴な疑問として伺います。利益率が高い業態を手塩にかけて育て成功させたのにもかかわらず、なぜ売却したのですか?
中川 理由は大きく2つありました。ひとつには、資金繰りの苦労から一旦解放されたかった。
「エビス参」は成功しましたが、それまでにやってきた飲食業ではしくじったものもあり、借入金の返済がまだ続いていました。順調に返せるようになってきていましたが、その順調さが保証されているわけではありません。何か問題が起これば頓挫しかねない。そういう脆さ、危うさを常に感じながらの資金繰り。
そんな構造を一度解消し、身軽になりたいと思ったわけです。

照井 最初から成功を収める経営者はそうそういらっしゃいませんから、成功後も以前から続く借入金を引きずるケースは珍しくありませんね。
中川 もうひとつの理由は私の性分です。
同じ業態の店を30店、50店と増やしていくことよりも、新しい業態を考え出して創り上げてみたい。そういうほうが好きなんです。手持ち資金をつくって、しかも時間的なゆとりができる。売却によって2つの条件がそろうと判断しました。

佐藤 売却を決断するのに迷いは出ませんでしたか?
中川 半年くらい考えましたよ。照井さんから買い取り企業の候補を数社紹介されて、各社と相談を重ねました。

佐藤 その過程で最も気になった点は?
中川 やはり社員の気持ちですね。どう反応するのだろうとやきもきしました。どの店も、社員込みで自分の子どものようなものです。ドライにはなり切れない部分がありますね。

佐藤 それで十二分に吟味した上で、あさくまサクセッションに決めたと?
中川 いやいや、そうじゃないんですよ。

照井 私が紹介した会社の中から2〜3社に絞られてきた段階で、あさくまの森下会長が手を挙げてこられたんです。
中川  私に直接、電話が掛かってきました。
「『エビス参』を売るんだってね。僕にも話を聞かせてよ」と(笑)。

佐藤 それで会ってみたら、とんとん拍子に話が進んだと?
中川 そういうことです。あの方の決断力と度量の大きさには頭が下がりました。実績データなんか見ない。私の話を聞いただけ。それでいい、と。
しかも、私には顧問として「エビス参」に関係する仕事を続けてもらうし、私の息子は役員に迎える。息子には5%程度の株も付けるという。なぜかというと、近い将来、「あさくま」が中国へ出店するとき、北京語ができて外食産業に詳しい息子は強力な戦力になるという判断なんですね。
そんな諸々を含めて、私には願ったりかなったりの条件。迷いはありませんでした。照井さんには尽力してもらったのに申し訳なかったんですけどね(笑)。
照井 いや、とんでもない。結果的にウィン・ウィンのM&Aが成立したんですから、私もうれしかったですよ。

活動の自由度がアップ

佐藤 思い切って「エビス参」を売却したことで肩の荷がおりたような状態になったと。それで今、どんなことを考えているのですか?
海外で自前の事業を展開しているとか。
中川 ええ。国内の「エビス参」はすべて売りましたが、上海店は残してあります。資金繰りの不安がなくなったので、今、2号店を出す計画を着々と進めています。

佐藤  タイはいかがですか?
中川 タイでは現在直営1店舗、FC1店舗を出店していますが、日本酒の関税が200%も掛けられているので、原価率は70%を超えてしまう。しかも、タイは持ち込み文化の国。持ち込み料をもらったくらいではとてもとても(笑)。

照井 やっぱり中国と台湾でしょうね。
中川 そう思います。

照井 ササフネの「丼丸」さんと何か話を進めておられるとか?
中川 はい。「丼丸」さんも中国と台湾への進出を考えているようです。しかし、適度な足掛かりがない。それで、私に話が回ってきました。その話の流れで、国内でも新しい挑戦をしてみないかという話に発展しているんです。

佐藤 それは何ですか?差し支えなければサワリだけでも教えてください。
中川 JRのある駅の構内に「丼丸」を出すから、マネジメントをしてみないかと。
「丼丸」というのは駅構内に出店したことがないらしいんです。それで、やりませんかという打診。よくよく話を聞いてみたら、やりがいがありそうなんです。それで実際、提携に動いています。

佐藤 なるほど。「エビス参」を売却する前よりも自由に動けるようになり、やりたいことができるようになっているのではありませんか?
中川 それは感じますね。あさくまサクセッションでは国内の「エビス参」と「スラバヤ」を首都圏中心に注力する。自前の事業では海外の「エビス参」や別業態を手掛ける。新しいことをやり続けたいという私の性分に合った動き方が、より一層できるようになったことを実感しています。

佐藤 ありがとうございます。ご活躍を楽しみにしています。
照井 私のほうでもできる限りバックアップさせていただきます。頑張ってください。

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佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』の編集者生活を経て独立。飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、編集長をつとめる。
『東京カレンダー』編集顧問を経て、業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を立ち上げ、編集長をつとめる。
照井久雄
経営コンサルタントとして提携フランチャイズ本部の立ち上げをした後、証券会社にて公開引受業務や中堅中小企業の資金調達の支援を行う。その後、中小企業を中心としたM&A 業務に従事。
2013 年、インクグロウに入社、初代M&A コンサルティング室長として中小企業のM&A 支援を行っている。中小企業診断士。