株式会社ユウシン取締役社長CEO 國松晃氏に聞く

市場淘汰の激しい飲食業界で、M&Aにより躍進を続ける企業がある。
M&Aを成功に導く秘訣は何か?
佐藤こうぞうフードスタジアム編集長とM&A専門家 照井久雄の2人が、今注目の飲食企業に乗り込み、M&A戦略の本質に迫る。

 買収店舗を続々黒字化 成功の秘訣は“人”の再生

kunimatuCEO

カラオケ店や「すためし」などの飲食店を展開するマックグループは、2014年6月、三光マーケティングフーズの「東京チカラめし」63店舗を買収した。

店舗を運営する(株)チカラめしの國松晃社長に、買収の経緯と現状、今後の展開を聞いた。

買収額は7億円強

佐藤 チカラめしの店舗の業績は、どうですか。
國松 63店舗のうち10店舗は、他社からの依頼で譲渡を前提に転貸しており、現在は53店舗が直営店です。そのほとんどをラーメン店の「壱角家」に転換しており、現在、2店舗を除き、黒字化を達成しています。
店舗の営業利益率は、平均20%、月・坪当たりの売上高が50万円を超える店もあります。
今回の買収では店舗社員を引き継げず、新たに採用して配属したため、まだ運営に課題がありますが、当社の方針が店舗運営に浸透すれば、売り上げは更に伸びると見ています。

佐藤 チカラめしを買収したいきさつを教えてください。
國松 チカラめしの20店舗を買収した「野郎ラーメン」の林正勝社長から、「チカラめしの店舗は、賃料が安く、立地もいいので、業態転換したら、比較的容易に収益化できた」という話を聞いていたため、新たに20店舗売却の話があった際、買おうと決めたのです。
ただ20店舗だと、賃貸契約交渉等で非効率なため、残りの店舗を一括で買いたいと伝えた結果、68店舗の譲渡が決まりました。ただ、5店舗は継承できなかったため、63店舗を引き継いだのです。

佐藤 4月に基本合意を締結、6月に買収と、早い展開でしたね。
國松 交渉に時間をかけると他社も入ってくるので、早く話を進めるために、細かい条件は交渉せず、こちらの希望を伝え、先方の判断を待つ形で話を進めました。
時間がかかり、買収額が上がるようなら、買わなくてもいい程度の気持ちで交渉に臨んだ結果、買収額は、7億円強、1店舗当たり1000万円強で決まりました。高い買い物だったとは思いませんが、店舗譲渡の場合「保証金プラス造作で、造作は500〜300万円、赤字ならゼロというのが一般的なところを、僕らは、600万円支払ったので、先方にとっても悪い話ではないはずです。

 モデル業の発想でカラオケ店を再生

佐藤 今回の買収で、國松さんは飲食業界で一躍有名になりましたが、25歳までタレント活動をした後、カラオケ店のアルバイトから始め、社長にまで登りつめたと聞いています。
國松 飲食業界に入るきっかけは、カラオケ店の再生でした。当時、マックの会長の川島が経営するカラオケ店のうち、不振店舗を大家さんに返すと聞いたので、売却を打診したのです。
当時、僕はモデルの傍らカラオケ店を経営しており、収益を上げられる自信がありました。すると、先方から、「買い取りではなく、週2回勤務で店の再生に協力して欲しい」と言われたため、引き受け、再生を果たしたのです。これが川島の耳に入り、新たに開業する店の店長にと誘われました。
モデルの仕事もあったので、最初は断ったのですが、時給2000円でと言われ、あっさり引き受けました(笑)。もちろんやる以上は本腰を入れて運営し、初月から1000万円を売り上げました。

佐藤 すごいですね。
國松 カラオケ店の経営は、実はモデルの仕事と同じで、売り上げを上げることは、さほど難しいことではありません。
モデルは、クライアントに気に入ってもらえて初めて仕事になるので、いかにクライアントの要望に応えられるかが重要になります。
同様にカラオケ店も、お客さんに気に入ってもらえることが鍵になります。そのため、私は、競合店を見て回り、それらの店に勝てる価格設定にしたり、お客さんの顔や名前を覚えたりと、喜んでもらえるサービスを徹底しました。その結果が、売り上げにつながったのです。

佐藤 カラオケ事業で成功した後、飲食業に進出しました。
國松 最初に手掛けたのは、銀行から紹介されたステーキ店でした。5店舗の買い取りを打診されたのですが、とりあえず1店舗だけ買い取りました。
その店は看板や内装に投資をしておらず、サービスもぞんざいでした。そこで、店内や看板をきれいにし、丁寧な接客をするなど、基本を徹底した結果、250万円程度だった月商が500万円ぐらいまで伸びました。

佐藤 その後、「すためし」を始めたのですか。
國松 「どんどん」という牛丼店をチェーン展開していたユーシンフーズを07年に買収し、ユウシンに社名を変えるとともに、「どんどん」を業態転換して「すためし」を始めました。
現在、「すためし」は33店舗展開していますが、償却後の営業利益が25%の店が7割あり、売上高も当初250〜300万円だった店が、現在は、900万円程度まで拡大しています。しかもほとんどの店は、賃貸借契約が40年前のままで、家賃が相場の半分以下なので、高い利益率を実現できているのです。

店の再生は人の再生から

佐藤 ところで、御社の店舗は、どの業態も看板が派手で目立つのですが、あれは戦略ですか。
國松 お客さんにとっては、屋号よりも何屋なのかがわかる方が大切なので、とにかく看板を派手にして、何の店かを一目でわかるようにしています。
僕たちは飲食店をやっていますが、ディズニーランドのようなサービス業だと思っています。会社が場所を借りて箱を作ってそこでキャストがどれだけお客さんを喜ばせられるかが大切だという考え方は、カラオケ店の時から変わっていません。
僕らは、職人の店ではないので、味で勝負する気はなく、ラーメンやすためしという日常食を通して、どれだけお客さんに満足してもらえるかが大切だと思っています。

佐藤 すると、人材が鍵ですね。
國松 そうです。しかし、買収された店の社員は、たいてい意欲を失っているため、店の再生には、人の再生が欠かせません。ただこれは案外簡単です。
飲食業の従業員の多くは早い段階で悟ってしまって、視野を広げたり、新しいことに挑戦したがりません。それでいて、自分が置かれている環境には、不満がある。そこで私は「自分が置かれている環境は自分の意思決定の結果だ。もし、それを変えたいなら、自分の行動を変えるしかない」ということを教えます。そうすると、行動を変えようという人が出てきます。
最初は、身近な夢を持つことから教えるのですが、行動が変わり始めると、それまで「彼女が欲しい」「お金が欲しい」と言っていた人たちが、「人を育てたい」とか「地域に貢献する店になる」とか、社会的なことを言い出すようになります(笑)。
そうなってくると、店の業績も見違えるようによくなります。
つまり我々がやってきたことは″ここをもう少し磨けばもっとよくなる〞という店を探して買収し、そこで働く人も含め、店を磨き直すことなのです。

佐藤 今後の展開を教えてください。
國松 現在、海外からの引き合いも増えているので、将来は、信頼できる現地企業にその地域での営業権を販売する形で海外展開を進めていく方針です。
一方、国内の新規事業は、これまで通り、M&Aが軸になるでしょう。なお、18年までに株式の上場も視野に入れています。上場により、調達力が高まり、信用力も高まれば、海外展開上でも有利になるでしょう。
ただし、我々は、売り上げを立てることを第一義としてはいません。飲食業に従事する人たちに、自分の力で環境を変えられることを教えていくのが我々のビジネスの目的であることは、今後も変わらないでしょう。

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佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』の編集者生活を経て独立。飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、編集長をつとめる。
『東京カレンダー』編集顧問を経て、業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を立ち上げ、編集長をつとめる。
照井久雄
経営コンサルタントとして提携フランチャイズ本部の立ち上げをした後、証券会社にて公開引受業務や中堅中小企業の資金調達の支援を行う。その後、中小企業を中心としたM&A 業務に従事。
2013 年、インクグロウに入社、初代M&A コンサルティング室長として中小企業のM&A 支援を行っている。中小企業診断士。