スプラウトグループ会長 高橋誠太郎氏に聞く

市場淘汰の激しい飲食業界で、M & A により躍進を続ける企業がある。
M&A を成功に導くには秘訣は何か?
佐藤こうぞうフードスタジアム編集長とM&A 専門家、照井久雄の2人が、今注目の飲食企業に乗り込み、M&A 戦略の本質に迫る

日本酒専門店を購入!新規業態を一から作るよりもスピーディーな展開が可能

s_photo1_0017学生時代から事業家が夢だったという髙橋誠太郎氏。大学卒業後、コンサルティング会社に入り、まずは営業力を身に付け、その後、飲食業界を担当する部門に異動。コンサルタントとして、いろいろな会社のサポートを行った。ゼロから新しい業態を立ち上げたいという話もあれば、繁盛している店舗があるので全国展開したいという話があるなど、多くの経験を積んだ。その上で会社を設立。

今は、数多くの業態を手掛けている。そんな髙橋氏が、M&Aで日本酒専門店「粋酔」を購入した。はたして、その狙いとは?

 

 

 

 

店舗コンセプトはシーンや体験の提供

佐藤 会社を設立して最初に手掛けたのは「ざうお」ですね。

髙橋 大学卒業後、入社したコンサルタント会社で「ざうお」の創業者と出会ったのが縁で、やらせてもらうことになりました。食事というよりもシーンや体験を提供する店です。

創業者はクリエイティブな方で、お客様を驚かせるにはどうしたらいいかと考え、店の中に水を張って船を浮かべたんです。最初は魚を泳がせていたんですが、釣ってもらったら面白いということになった。

佐藤 成功しましたか。

髙橋 これまでいろいろな業態を手掛けましたが一番成功しています。投資が1億円で、15カ月で回収しましたから。

佐藤 それはすごいですね。

髙橋 徹底的にシミュレーションをやって、ぜったいにいけると思って始めました。その通りになりました。

佐藤 その後、オリジナル業態を始めるわけですね。

髙橋 はい。「魚ばか」の新宿店がオリジナル業態の最初です。

照井 ユニークな店名ですね。

髙橋 一度聞いたら忘れない店名にしようと思って「ばか」というマイナスの言葉を入れました。それと、マニアックな魚専門店という意味を込めました。天然ものの、築地ではあまり流通していない魚を三浦から毎朝もってきて出しています。都会の真ん中で、海のそばで魚を食べているようなシーンを提供する店です。

佐藤 やはりシーンの提供がコンプトなんですね。それにしても仕入れは大変じゃないですか。

髙橋 はい。魚の仕入れというのは思うようにはいきません。そこで、その日の仕入れに合わせ、一定の価格内で最高のものを出しますので、お任せくださいという形にしています。そうすれば無駄がなくなり、原価も抑えられる。

照井 そういえば魚の卸会社も作っていますね。

髙橋 はい。「ざうお」に魚を卸していた活魚屋さんから、もうやめたいので、社員とトラック、生簀を買い取ってくれないかという話がありました。迷ったのですが、仕入れに特化してやっていくなら、あった方がいいと思い、買い取りました。これが当社の最初のM&Aということになりますね。

魚にこだわった業態を複数展開する

佐藤 その後、新しい業態の「イカセンター」を始められましたね。イカ専門店というのはインパクトがありました。

髙橋 そもそも専門店というのはリスクが高すぎて大きな会社はやりたがりませんからね。それに、イカが入らなかったらどうするんだという問題もある。

私はイカが入らない日があってもいいと思っています。海のそばで食べているというシーンを提供する店ですから。

佐藤 イカセンターは何店舗になりました?

髙橋 香港も入れると10店舗ですが、香港は最近業態変更をして店名を変えましたから、9店舗ですね。

佐藤 イカセンターの後も魚を提供する業態を作っていますね。やはり魚にこだわっていらっしゃるわけですか。

髙橋 千葉県館山市の船形漁港の名前を冠した銀座船形という店を作りました。これが徐々に形になってきましたので、船形大手町を出して、最近、神楽坂船形を出しました。千葉業態とでもいったらいいのでしょうか、千葉の魚と千葉の酒にこだわった店舗で、朝捕れの魚を出しています。

今後も魚業態は立地に合わせてやっていきたいですね。ただし、ブランドを増やすかは分かりません。人が採用できるかどうかです。無理して出店すると既存店の人材が疲弊していく恐れがあります。なかなか簡単にはいきません。

照井 ほかには焼き鳥もやってらっしゃいますね。

髙橋 「鳥波多゛」と「れば屋」です。魚以外で30年続く業態といえば、やはり焼き鳥だろうと思います。希少部位を鮮度良く扱うということにこだわりながら、安く提供することをコンセプトにしています。

タイで焼き鳥屋をオープンタイ人で満席の店を作りたい

佐藤 焼き鳥はタイでも手掛けたとか。

髙橋 はい。バンコクでも、美味しいという評価をいただいています。今は7対3で日本人が多いんですが、タイ人のお客様で満席になる店もやりたいですね。

照井 タイは広げていく予定ですか。

髙橋 広げていきますよ。ただし、アジアについてはタイだけでいいかなと思っています。アジア以外はアメリカですね。サンディエゴに来年「鳥波多゛」を出すべく動いています。

佐藤 今後についてどうですか。どのようなビジョンをお持ちですか。

髙橋 グループ全体で60店舗くらいにしたいですね。そのためには、やはり人材──、特に10店舗くらいを見ることができるリーダーを育てる必要があると考えています。ただし、トレーニングしてもうまくいかない。それよりも働いていて気持ちのいい環境を作ることだと思います。たとえば満席でお断りするほうが気持ちがいいですし、お客様に美味しいといってもらえた方が気持ちいい。そういう店を作れば、あまり教育に手間隙をかけなくても、自分で工夫するようになると思うんですよ。

新業態を一から作るより買った方が早い

佐藤 今回、日本酒専門店「粋酔」をM&Aで買われたわけですが、どのような狙いだったのでしょうか。

髙橋 日本酒業態を一から作るよりも、評判を取っているものを買った方が早いからです。

「粋酔」の一番の魅力は決して単価は安くないのに、お客様が安いといってくれるところですね。イカセンターは、なかなか安いとはいってもらえないんですよ。「粋酔」にはプライシングの妙があります。

それに、日本酒100種類飲み放題が特徴なんですが、初心者向けの専門店で、女性も来店して写メを撮ったりしている。私たちではできない店です。

照井 私たちにはできない店というのはどういう意味ですか?

髙橋 私たちが一から作ったら初心者には敷居の高い、フルスイングのこだわりの店にしてしまうと思うんですよ。「俺の揃えた酒を飲め!」みたいな……。粋酔は店名も力が抜けていて、そこがいいですね。

照井 今後、料理のメニューは変えるんですか。

髙橋 もう変えています。ただし、一足飛びにやってしまうと、今いるメンバーが否定されたように感じるかも知れません。これまでのものを維持しながら、彼等がやりたいものを引き出して、徐々にアジャストしていこうと思っています。

佐藤 今回のM&Aについてはどうでしたか。

髙橋 インクグロウの照井さんとは、昔から知っている仲だったので、満足しています。一からオリジナルの業態を作るのは大変です。M&Aは有効な戦略だと思います。

佐藤 これからもユニークな業態を期待しています。本日はありがとうございました。

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佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』の編集者生活を経て独立。飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、編集長をつとめる。
『東京カレンダー』編集顧問を経て、業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を立ち上げ、編集長をつとめる。
照井久雄
経営コンサルタントとして提携フランチャイズ本部の立ち上げをした後、証券会社にて公開引受業務や中堅中小企業の資金調達の支援を行う。その後、中小企業を中心としたM&A 業務に従事。
2013 年、インクグロウに入社、M&A担当部門の取締役として中小企業のM&A 支援を行っている。中小企業診断士。